桃すすりつくづく母はゐずなりぬ
読み返す素十や秋の雲速し
四Sの一人忘れてこぼれ萩
裏道を行けば安らふ草の花
夕かなかな胸底のちちははの声
松井季湖
写真 季湖・アマガエルのVサイン
祝敬老うれしいようなせつないような
歯が欠けてまんまる満月見上げてる
洗濯機故障している萩日和
しみじみとワケあり林檎のそのワケを
真っ赤なリンゴ祝祭めいてあり
おーたえつこ
点滴をしていたポニー秋の虹
街の音静かに消して月上る
星月夜音がはじける入浴剤
台風来一家総出でコロナです
良夜ゆくほっこりゆたり夕餉の香
たかはしすなお
表札三つ入口二つ鰯雲
秋蝶の意志ある浮遊日の光
窓の外茜に染めて切るレモン
秋の灯の匂い絵本を読み聞かす
星空の瞬き夜遊びの終わり
つじあきこ
写真 あきこ・上賀茂神社「一ノ鳥居」
遺失物用紙一枚秋の雷
秋灯し吸取紙を押し付ける
音楽は音楽室へ小鳥来る
草の花でんぐり返しやってみた
歩き方いろいろ試す天高し
辻水音
ヒスイ色の風呂に浸かるや台風裡
萩白しもうてきぱきと動けない
美容室を出るやまた会ふ秋の蝶
この良夜天国からのおくりもの
新色の口紅供ふ秋彼岸
はしもと風里
亡き人が来ているような良夜かな
林檎捥ぐ藤村の詩口ずさみ
祝杯のグラス並べる星月夜
水澄むやアクセント辞典膝に抱き
秋灯し猫のおむつを手作りす
波戸辺のばら
写真 のばら・赤とんぼ
直感で道を選ぼう昼の虫
恋人よキキョウの庭で待っていて
実験に喜びの声あげる秋
僕たちの汗と涙が台風に
朝寒や嘘をつかない体重計
林田麻裕
背中・腰・痛い夜長を寝る薬
マンションの七階ですが赤とんぼ
胡桃割る夫の実家は弟へ
さばさばと爽やか秋の空青く
ガチャガチャもチンチロリンもいて生家
火箱ひろ