さみしさに馴れるさみしさ薔薇の雨
ホテルX色なき部屋に赤い薔薇
棘のなき薔薇につつまれ眠りたし
妹の薄きからだに薄暑光
妹に生きる力を凌霄花
はしもと風里
指よりもおいしいジュース買ったげよ
駅員室よりクーラーの冷気よ
この曲は弾けるだろうかアイスティー
唐揚げの香りがしてる冷房車
山登り飴の香りとすれ違う
林田麻裕
新妻のパールのピアス夏来る
テーブルクロスブルーに変えて街薄暑
薔薇の庭女主の名を知らず
緑陰は我のオアシス荷をおろす
五月野に遊ばせておくおばあさん
波戸辺のばら
写真のばら・我家のカラー
姉老いてしゃべるのなんの虹の橋
ひとり居のアイスなめなめ七十五
夏めいて温泉町は下駄の音
胡瓜もむ柔道中継見つ聞きつ
初夏の木陰ころびて見る比叡
火箱ひろ
はつなつやホテルの椅子に沈み込み
ふるさとの私の部屋のカナブンブン
透明の傘弾ませて若葉雨
虹の字に虫がいるねと虹見上ぐ
山滴るさらに滴る貴船道
おーたえつこ
朝光や蟷螂ひそと孵化始む
蟷螂生る先づ真つ黒な眼出づ
身を捩りよぢり外界へ子蟷螂
子かまきり早やも怒りを持ちてをり
風吹けば風に乗るのみ子かまきり
松井季湖
写真季湖・かまきりの孵化
生きてるぞ五月の朝を深呼吸
夏柳まんだら湯まで風呂桶と
爺ちゃんに甘い婆さま青田道
虹ほどけふるさとまでの遠い道
焼きたてのフランスパンとバラ園へ
たかはしすなお
本の帯きれいに畳む新樹の夜
ひんやりとして麦秋の銀のノブ
青時雨グーチョキパーを足の指
梅雨晴やぐしゃと潰れてサンダルは
ちょっと話そうか虹の消えるまで
辻 水音
真っ白なシーツ遠くの青岬
虹かかる伸びてツーランホームラン
じゃがいもの花の静かな五時間目
若葉して止まった時計の空間
横書きの感覚しばらくは薔薇を
つじあきこ
写真あきこ・京都府立植物園「未来くん広場」