赤い鳥赤い地獄の釜の蓋

 

あの世から遅れてきたるうかれ猫

 

早春のバス待つ靴がステップを

 

ふり向いて妻待つ手には菜の花が

 

梅香る昔鶏小屋だった跡

 

   たかはしすなお

怒りつぽい老人を飼ふ春炬燵

 

花枇杷へかくれるあそびしてゆらり

 

厨房に新の木杓子寒明ける

 

かの子の忌歯の無い跡のむずむずと

 

少年のギプスに春の日差しかな

 

  辻 水音                 


 

開脚の限界あっ、牡丹雪

 

弱虫と利かん気がいてブランコ

 

両ほほに水柔らかな春の朝

 

春場所の張り手が決まる三段目

 

半分の私もう半分はきんぽうげ

 

  つじあきこ 写真あきこ・明神川(上賀茂社家町)  


集まつてあの世にひらく白椿

 

紅梅に静かなこころ乱される

 

冴返るいつも一羽の赤い鳥

 

弟を喪つた夜のシクラメン

 

かなしみの涙たりないリラの花

 

   はしもと風里

音楽になりそな散歩春うらら

 

泣くための栄養ほうれん草食べる

 

春の海風の話を聞いている

 

チューリップ無口な店主の横で咲く

 

言葉なくした二人に春の風が吹く

 

   林田麻裕


 

山笑う男の愚痴をうっちゃって

 

あの世から脚の開閉桃の花

 

あんパンのへその辺りが朧です

 

指揮棒を高く掲げて卒業す

 

春風に会うため丘に登ります

 

  波戸辺のばら 写真のばら・二条城唐門


西山の冠雪を見つ朝ごはん

 

春浅く亡き母ちゃんのちゃんちゃんこ

 

梅の花咲くよ豆腐屋までの道

 

のぼさんの痛さわかるよ梅の花

 

春めきて亡き母の字を見ては泣く

 

   火箱ひろ

冬ぬくしバナナかじって少し泣く

 

春の沼ぬるりと静止する波紋

 

いつも踏む末黒野の黒踏みにゆく

 

きさらぎの手洗いうがい鼻うがい

 

ねこやなぎさやさやはるの鼻ずるずる

 

   おーたえつこ


食べこぼし愛しきははのカーディガン

 

線香のけむりたゆたふ雨水けふ

 

春寒や香炉灰均してひとり

 

ちちははの位牌並べて月おぼろ

 

月おぼろ母は着いたかお浄土に

 

  松井季湖  写真季湖・朧月