繭玉抄
林田麻裕
福岡に君は帰っていくけれど私は春を忘れないから
石鹸玉のドレスで君に会いたいわプチプチプチプチプチ抱きしめて
父さんに似て顔は小さいけれど父さんに似ておなら大きい
か行の絵本全部借り両腕に楽しい重さぐりぐらぐりぐら
運命かどうかは僕が決めるから母さんはレタスを噛んでいて
繋がる五七五㉔ 寅彦②
おーたえつこ 消しゴム版画 辻 水音
寅彦たちは、旅先でも連句の会をします。
いつでもどこでも、きっかけさえあれば連句を始めます。
「八月十八日雲仙を下る」
霧雨に奈良漬食ふも別れかな 蓬里雨
馬追とまる額の字の上 青楓
(津田青楓、せいふう、画家。漱石らと親交があり、漱石の「明暗」の装幀をした。寅彦ら
漱石を囲む弟子たちの似顔絵やそのようすを描き、思い出を執筆。)
ひとり鳴る鳴子に出れば月夜にて 寅日子
けふは二度目の棒つかふ人 東洋城
ぼそぼそと人話しゐる辻堂に 雨
煙ると見れば時雨れ来にけり 子
中略
蘆吹く風に廓のきぬぎぬ 城
細帯に腰の形を落ち着けて 雨
簾の風に香る掛け香 子
(また、風が打越。これはひどい気がする。雰囲気まで前々句に戻っちゃダメですよねえ。)
庭ながら深き林の夏の月 城
この歌仙、ここで未完。
仕上げるときに、打越など修正するつもりだったのか? そんなこと気にもしない楽し
い遊びなのかな。
津田青楓さんとは、初句のとおり、この旅先で別行動になったのでしょうね。登場したの
最初だけですから。
「十三回忌」
(漱石の十三回忌に集まって、連句をしたようです。)
人に死し鶴にの御句や九日忌 東洋城
(漱石の句に、人に死し鶴に生まれて冴返る、という句がある。人として死んで鶴として生
まれたよという句)
遺愛の軸に薫る水仙 寅日子
(漱石に対する愛を感じます)
ほかほかと硝子戸越に日の射して 蓬里雨
(これは、漱石の「硝子戸の中」へのオマージュか)
夕になれば浜で魚買ふ 城
燈台へ小舟で渡す凪の月 子
遥の果てに下りてゐる霧 雨
隠れては草子をつづる秋深く 城
(なんとなく「草枕」)
隣の犬に物くれてやる 子
飛び石の一つ一つを洗はせて 雨
(漱石の名前にちなんでいる?)
中略
まじまじ動く船虫の髭 城
見晴しの餅で客呼ぶ花の茶屋 子
足袋ぬぐ足をなぶる春風 雨
これも、半歌仙で終わり。未完、とされているので、半歌仙で終わるつもりはなかったの
かな?
私は、夏目漱石の周辺に集まっていた人たちの細かいエピソードが好きです。
決してお互いにべたべたと仲良しじゃないのだけれど、漱石先生のことが大好きという
人たち。
半歌仙も、一句一句ぜんぶ、彼らの「せんせーいっ!」という心の声が聞こえる気がしま
す。
さて、私の、繋がる五七五もこの辺にしておきます。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
猛暑日の空
枚方バージョン
雷が鳴りそうな空・枯れ向日葵と・青田と雲・段々畑と朝の太陽・抜けるような青空と月
写真 すなお