繋がる五七五⑧

      おーたえつこ   消しゴム版画 辻 水音

 前回二条良基主催の連歌に、救済と周阿という連歌師が登場しました。二人とも二条良基に親しく仕えていました。その二人がある日良いこと(?)を思いつきました。自分たちであらかじめ推敲を重ねた付け合いを上手いこと出して、御褒美を山分けしようって。

 そのころ、都では賭け連歌といって、その日いちばん上手に付けた人に賞金(メンバーが出した賭け金)が出る連歌会が流行ったそうです。教養ある宮廷歌人はそれを蔑んだ。でも後鳥羽上皇なんか一口乗ってみたりしていたそうです。たぶん他の偉い歌人たちだってこっそりと遊んでいたにちがいない。

 良基たちの時代は賭け連歌が大流行の挙げ句、そのピークを越えつつあるころでした。(あ、「挙げ句」って、連歌連句からきた言葉ですよ。最初の句は発句、繋がった最後の句を挙げ句と言います。)

 で、その周阿、救済の談合は、まず周阿が良さそうなところで、

 池をも田にや作りなすらん

 

と出す。そこで救済がすかさず

 

水鳥のをしねかりほす秋の日に

 

 


と付けるというものでした。「をしね」は水鳥の鴛、それと「おしね」遅い稲とを掛けているのかなあ。ただ、「晩稲」は、おしね、「お」なんです。「を」じゃないんです。わざとなのか、確信犯なのか、何なのか。どなたかわかる方がおられましたら教えてください。それから、「かりほ」は、水鳥の雁と「かりほ」仮の庵、「仮庵」と、稲刈りの「刈り穂」を掛けていそうです。仮庵に寝ることを考えると、「をしね」はぎゅうぎゅう詰めに押し合いながら寝ることかな。水鳥って身を寄せ合っていますものね。でも、「押し」も「を」じゃないんです。「お」なんです。「をし」なのは愛しいの「愛し」です。仲良く寄り添って寝ることとも掛けてあるのかも。

 とりあえず、話を進めます。

 

 宗匠の救済は周阿を座の執筆に指名します。執筆は、座を取りまとめる人、捌く人です。自分の句を出しやすいように前句を捌いてゆき、首尾よく「池にも」の句を出します。ところが救済よりも先に良基が

ふかかりし夜はほのぼのと打明けて

 

と付けてしまいました。そこで周阿は近くに夜の句があるのでその句は差し合いで出せませんと言って良基にもどします。そうやっておいて、おもむろに救済は「水鳥の」の句を出したのです。

 

 良基はこの句に感心して、自分の句が差し合いになって良かったと喜んだ。この付け句で周阿はまんまと賞金を懐にしたわけです。


 (そういえば、先ほど使った「首尾」も連歌連句用語ですね。歌仙や百韻の首(初折の表、歌仙なら表六句、百韻なら表八句)から尾(名残の裏、歌仙なら裏六句、百韻なら裏八句)まで揃って出来上がり。首尾一貫です。)

 そんなこんなで賞金を山分けしたこの二人、後日、懐紙を点検していた良基がそんなところに夜の句などないことに気がついて、二人の悪だくみがばれて、しばらく都にお出入り禁止になったとさ。

 嘘か誠か。

 私、この付け合いが金千両ももらえるほど感動的な付けとも思えませんけど。掛詞がいっぱい入ってると点数が伸びる?カラオケのビブラートみたいな?

 みなさん、どう思われますか?

 

 

      参考 「連歌史 中世日本をつないだ歌と人びと」奥田勲著

繭 玉 抄

恋している十七音を作っても三十一音でも好きばかり

 

色白のアナウンサーのイヤリング深い緑がつるんと光る

 

料理研究家ニコニコ調理するあなたに切られる芋になりたい

 

雨の音は女を二階にやる魔法あっちトントンこっちトントン

 

私の中のいい加減ちゃんよく眠る完璧君よちょっとは休め

 

林田麻裕

歌仙「真っ白な雲」の巻

                     連句部(おーたえつこ・辻 水音・波戸辺のばら・つじあきこ)  

                             消しゴム版画 辻 水音

真っ白な雲見上げおる暑さかな    えつこ

 鞄に入れるポカリスエット     のばら

バゲットの尖るあたまに朝が来て   あきこ

 通勤電車いつもの座席       水音

参加者が揃い乾杯月の宴       えつこ

 桔梗一輪バカラのグラス      のばら

窓は秋ポッキーチョコがぽっきんと  あきこ

 つついてみたい可愛いえくぼ    水音

きゅんきゅんが止まらぬ胸を持て余す のばら

ハッと目覚めてホテルにひとり   えつこ

留学のパリに向かって搭乗す     水音

  光集めてカリンの机        あきこ


繙くは植物図鑑寒月下        のばら

 くしゃみしながら眼鏡はどこだ   えつこ

速報の犯人確保まざまざと      水音

 S字カーブをきれいに曲がる    あきこ

花の昼車酔いしていろは坂      水音

 クローバー編む男の子たち     あきこ

SMAPV6も蜃気楼         えつこ

 職業欄にサッカーコーチ      のばら

バイトには出汁が命のラーメン屋   水音

 女だてらと言われた昔       あきこ

利根川の河童の寧々子蟇を飼い    えつこ

 

 青田道より風わたりくる      のばら


つつがなく暮らしていると便り聞き  水音

 展望デッキぐるぐるデート     あきこ

新郎を拐い階段かけおりる      えつこ

 愛車を駆って湘南の海       のばら

月のぼる読み終えた本二、三冊    あきこ

 火伏の山に猪の罠         水音

秋時雨不動の眼らんらんと      えつこ

洞窟深くロープを垂らし      のばら

長い鼻くるりと巻いて象遊ぶ     あきこ 

 鳥囀れば魚群れゆく        水音

花ごろも粋にまとってにぎやかに   えつこ  

      春の灯更けて誓う再会       のばら


季 湖 ワールド    季湖の庭のカマキリ②        写真 季湖

 

   庭の水やりをし始めると姿を現し水を飲みます。

     カマキリの仕草は猫に似ています。   (季湖)