ふるさとへ帰る柘榴の実が熟れて
想ひ出を束ねて燈火親しめり
蟷螂や籠りてをればやつれたる
「ゆめぴりかでございます」と秋袷
擂粉木はいびつなまでに昼の月
辻 水音
くちびるはいつもやはらかデラウエア
林檎むくやがて老婆になるわたし
わが身さへ自在にならず秋気澄む
星明りからだが痛み発信す
空耳か深まる秋の「ただいま」は
はしもと風里
鰯雲さがしてしまう１７番
今君はペガサス秋天を翔ける
先の世は賀茂の神社の野紺菊
残る虫エンドロールに紛れ込み
秋の日をみんなおんなじ眼鏡かけ
波戸辺のばら
写真 のばら（秋の雲）
笑い声の高さよ冬の商店街
懐炉とは手渡すことのできる愛
赤ちゃんのグーの手みたいな冬の雲
寝ころんだ父さんみたい冬の雲
私の王子様は短足冬うらら
林田麻裕
寝転がる空の底辺秋深し
君に投ぐりんご手榴弾のように
柿ひとつおむすびひとつ昼ひとり
秋の陽の匂いの蒲団父母の家
行きあたりばったり出会う新豆腐
火箱ひろ
秋夕焼け別れは会ふのはじめかも
おほばこや手加減をせぬ父懐かし
さわさわと風ほろほろと秋の蝶
あ、と言へば金木犀だねと言へり
夜寒さに猫の思ひ出話など
松井季湖
写真俳句 季湖
天高く洋子はいつも胸張って
月の夜のりんごのうさぎころんころん
ささやきのような月光ほほに受け
（季湖さんへ）
かまきりに懐かれて人うつくしき
（風里さんへ）
蓮の実飛ぶドーナツの穴明るくて
おーたえつこ
優秀な人の頬骨秋うらら
秋うららスーパーまでの小旅行
十月の行方不明のマダムジュジュ
結論を先にいいます花芙蓉
気がかりはあの柘榴の実割れぬこと
たかはしすなお
ささやきはりんごの匂い吾子を抱く
口笛を乗せて十月の風
友情と愛かな二人栗ご飯
砂時計ごろんと寝かす夜長かな
朝が来て昨日のままのいわし雲
つじあきこ
写真 あきこ（花脊）
