辻響子さん 句集   秋の部

息吸へばごんごん押して来る秋思

 

たらし込む群青色や短き夜

 

はんぺんと竹輪のうたげ地蔵盆

 

団栗が降るまでローズヒップティー

 

嫌な虫嫌いじゃない虫すだく虫

 

   辻 響子

 

 

 


籐椅子のぎしぎし日暮れ来ていたる

 

ゆく夏の鏡の中の木が揺れる

 

浜昼顔吹かれ地の果て海の果て

 

悔しさを流せ秋天向く蛇口

 

初秋の声聞くだけでいい電話

     

    火箱ひろ  写真 すなお


黙祷の一分重し蝉時雨

 

乳房ふと寂しと思ふ晩夏かな

 

比良は茜に盆みち作り終へたれば

 

おしよらいさん迎へ一日の短さよ

 

枯れ色の蟷螂に聞く風の音

 

   

   松井季湖  写真 季湖


 

 

くすぐればつるんと逃げるはだかんぼう

 

むちむちの子どもの日焼けほめてやり

 

待ちかねて虹のようなるかき氷

 

夏風邪の子ども元気でうれしげで

 

未来とか夢とかあって夏休み

 

   おーたえつこ  写真 えつこ


亡きひとと膝まで濡らし夏の川

 

川を渡れば子が待つてゐる晩夏です

 

小鳥来るまだ歌ふ気になれなくて

 

盆の雨ためらひもなく降りつづく

 

雨の盆動画のきみは笑みこぼし

 

   はしもと風里

バッタ跳ぶ予選通過のEメール

 

おろしたての秋服を着て抹茶パフェ

 

運動会休憩時間の静けさよ

 

触れているのに手をつながない残暑かな

 

侍と待ち合わせする月の夜

 

 林田麻裕


 

 

かぶりつくビッグマックや原爆忌

 

ドロップスからんからんと終戦忌

 

白木槿咲いても咲いてもさびしい

 

鴨川をくすぐっている猫じゃらし

 

葉室麟読了の窓小鳥来る

 

 波戸辺のばら  写真 のばら


水着脱ぐ「蒙古斑だね」「もうゴハン?」

 

馬の首たたく笑顔や涼新た

 

鉄棒を飛び越えつかむ朝の虹

 

秋夕焼けボクがゆさっとほどけだす

 

秋茄子尻にあまたの傷つけて

 

                たかはしすなお

星飛んで棒高跳びのバー遥か

 

熟れ残るいちじく森田工業所

 

稲波に微かなかをり天の川

 

里心つくや芋茎の太くあり

 

秋の蝉匍匐前進して去りぬ

 

   辻 水音

 

 


     地図帳に指で線引く晩夏かな

 

少年のキャッチャーミット原爆忌
 

父の忌のふふふ葡萄黒葡萄
 

花カンナ昭和頑固に生き通す
 

梨を剥く母の話の途中から

 

  つじあきこ 写真 あきこ