辻響子さん 句集 夏の部
きみの指に恋をしてゐた蛇苺
若葉風夢でもいいよ逢ひたいよ
五月雨や声をかけたいほど似てる
供花として薔薇カーネーション百合ダリア
遠雷や真珠のピアスみがく夜半
はしもと風里
子宝に恵まれるとか夏の雲
軟膏をしっかりと塗る熱帯夜
白玉や赤毛のアンの瞳して
バンガロー誰の薬の転がって
さりげなく誕生日聞く夏の庭
林田麻裕
木の言葉風の言葉を聞く五月
対岸は桐の花咲く男子校
デッサンは横顔ばかり緑の夜
非常事態日常にして薔薇咲いて
母さんが死にそうだけど豆ごはん
波戸辺のばら
（写真 のばら 豌豆）
春闌くや私はどこへ行くんだろ
ふわふわの母の猫つ毛聖五月
母に虚(ｳﾛ)増えてきたるよ桜は実
日記の余白「さくらんぼ三十個ほど」
夏炉して猫の余命を慈しむ
松井季湖
（写真俳句 季湖）
鯉のぼりパンデミックの風孕み
青葉木菟「イザベラ・バード」読破して
恋かもね枇杷は枇杷色少年期
青山河生家に魔女の箒あり
ラ・カンパネラ天窓を打つ青葉雨
火箱ひろ
でで虫や防災無線がステイホーム
父の日の父へ海洋深層水
青水無月北に狼煙のように雲
実桜やわたしは恋のつけあわせ
鞍おろす鞍の形に汗かいて
たかはしすなお
放課後の銀色の海聖五月
ふたりして猫を探した若葉雨
思い出のひとつひとつの夕焼けかな
（季湖さんの写真「きゅうりの百面相」二句）
切り口にわたくしの顔へぼきゅうり
きゅうり切れば切り口にあるズルい顔
おーたえつこ
（写真 えつこ さくらんぼ）
片恋の五月は遠い雲にのる
海岸線の家族のように花蜜柑
父の日を温み残して精米機
水曜の午後の心は水羊羹
処方箋をバッグに赤いバラのカフェ
つじあきこ
(写真 あきこ 大田の沢 杜若）
ヤットコが働き頭夏来る
母の日や縫ひ止つたら丸結び
青葉してまどろむ午後の保健室
くり返すスタートダッシュ青嵐
素つ気なく消へゆく気泡レモン水
辻 水音
（写真 あきこ 上賀茂神社・桐の花）