繭玉抄
綿棒の綿の部分に小さくて見えない虫が眠っているかも
振り向けばどんな大人もマスクして赤ちゃんだけがマスクしていない
あの雲とおんなじ柔らかさだろう優しい甘さのこのカステラは
心にもぐるぐる着物着ていたい君の言葉に傷付かぬよう
パスタソース自主回収のニュース知りお腹の中のパスタ振り向く
林田麻裕
歌仙「冬晴れや」の巻
連句部 消しゴム版画 水音
冬晴れや左右で変える靴の紐 のばら
ほのかな明り点く枯野原 水 音
離れ屋で独り静かに絵を描いて えつこ
さらりと食べる鯛のお茶漬け あきこ
着飾って南座の前昼の月 のばら
洋梨買いに高島屋まで 水 音
収穫後畑の案山子ちょとぐれる えつこ
ヤンキーだけど優しい人よ のばら
トリセツのとおりにゆかぬ君を抱く 水 音
あんよは上手ここまでおいで えつこ
支払いはGoToEat食事券 のばら
国会中継つっこみいれる 水 音
信長もカエサルもいず月涼し えつこ
夜店の金魚とバス待ちぼうけ あきこ
嫁入りの道具に赤い幔幕を 水 音
映画祭から招待されて えつこ
花の宿窓をあけると地中海 えつこ
蝶々ひらひらスカートふりふり あきこ
雲雀東風自転車二台後先に のばら
昼ごはんどき吉野家の列 水 音
屋根の上寝そべって読む落語本 あきこ
サナトリウムで一年過ごし えつこ
故郷は近くて遠い雪こんこ あきこ
マフラーきゅっと兄とお揃い のばら
逆上がりできておでこが広くなる あきこ
にっこり笑い頭ぽんぽん えつこ
ラブラブの二人はいつも夢を追う あきこ
マティーニ飲んで最後の夜を のばら
空海の渡りゆく唐月照らす 水 音
牛と戯れ草泊まりする あきこ
秋天にテニスボールの弧がきれい のばら
部活動室落書きあまた 水 音
魔女たちが虫や木の根を大鍋に えつこ
腹式呼吸佐保姫の息 のばら
花満ちて午後はまあるくなる心 あきこ
あしたへつづく春の夕焼け 水 音
季 湖 ワールド
季湖さんよりお便りが。
「初めて百舌鳥の贄を見ました。
すっかり葉を落としたえごの木です。
蟷螂(多分チョウセンカマキリ)の卵鞘も見つけました。
これでわが家には卵鞘三つ。どれも比較的低い場所にあるので
今年の雪はそれほど積もることはないかなぁと勝手に思っています。」
「久しぶりに本を買いました。本のにおいフェチなので先ずはくんくん。」
相変わらず綺麗な写真も送ってくれました。
繋がる五七五 ②
おーたえつこ 消しゴム版画 水音
万葉集にもたくさんの、歌のやりとりがあります。
言葉というものは、なかなかに信用のおけないものです。口にしたとたん、良くても悪くても、言葉はひとりでどこかにいってしまって、もう戻らない。
でも、歌や詩になると言葉は、形のあるものになる。良くても悪くても、歌えばそれは贈り物になる。武器にもなる。古代の人たちは現代人よりも強くそう思っていたようですね。
ヤマトタケルの連歌始めと並んで、こちらも連歌の始めじゃないかといわれるのが、大伴家持と尼のやり取りです。
佐保川の水を堰き上げて植ゑし田を
と、尼が詠みかけたのへ、家持が、
刈れる早飯はひとりなるべし
と付ける。
あるとき尼と呼ばれる女性に、女性が仕える主人かパトロンかそういう人が、大事に耕して水をやり育てた田んぼのみごとに実った稲になぞらえて求愛の歌を贈ったそうです。
歌を贈られたら返歌が必要です。「大事に育てていただいた田んぼの稲です」と、尼は上の五七五を作りました。下の七七で、「そのお米を食べるのはあなたですよ」と、OKを出したのは家持です。
求愛をした人と家持は友人か親戚。尼と家持もおそらく友人か親戚。仲を取り持ったのでしょうか。