辻響子の句集から
小鳥来る柱時計の螺子を巻く
ちょと変な爺のスキップ七五三
冬の朝まず鉄瓶で湯をわかす
晩秋の森に柩のような穴
セーターとワタシをほどくしゅるしゅると
たかはしすなお
写真 すなお
珈琲の香の立つ方へ冬が来て
確かめる木の香はいくつ落葉踏む
夕暮れを透き通るまで大根煮る
眠らない山茶花あしたも朝が来る
逢いたいね高いね遠いね冬満月
つじあきこ
写真 あきこ
花脊の「大悲山峰定寺」の山門と高野槙
空也忌や金平糖のにほふ露地
バネ秤だつふんと振り日短
冬晴や紙鉄砲に狙われて
十夜婆キャリーバッグを引き連れる
生業の窓にとどまる冬の月
辻 水音
話し足りないままの別れや酔芙蓉
巻き戻しできない時間落葉降る
天国を訪へば逢へるか冬夕焼
ひとりの日冬のピアノを慈しむ
横顔の退屈してゐるホットワイン
はしもと風里
寂庵にでかい穴ぼこ石蕗の花
ホモサピエンスとして老い冬ひなた
できないことまたひとつポインセチア
グレイヘアー押し込む朝のニット帽
気持ち真っ直ぐ背筋真っ直ぐ冬木立
波戸辺のばら
写真 のばら
オルゴールみたいに雪が降っている
酒粕と日向ぼっこの酒屋さん
白菜を切る度大人になっていく
くしゃみして朝の薬を飛ばしけり
たこ焼きをまっすぐに持つ小春日よ
林田麻裕
気がつけば老人だった冬館
冬深く時計の音のする時計
木の匙で舐める蜂蜜風花す
かくれんぼの穴がまだある冬欅
—藤井風君にー(同郷のシンガーソングライター)
五郎助ほうあんたもわしも岡山弁
火箱ひろ
枯れ切れぬ一花よ未だ朱を残し
山茶花や母の握力六と四
陽は淡くたゆたひ後の衣替
小春日や笑ひのツボがおんなじで
薬袋のひとつ増えけふ小雪と
松井季湖
写真 季湖
突然のひとり暮らしの冬支度
あかあかと記憶のかけら冬夕焼け
玲子さんの少女のように冬帽子
(季湖さんのかまきりくんへ二句)
目が合って昨日のかまきりだと思う
かまきりの隣の猫に似ておりぬ
おーたえつこ
写真 季湖