抱き枕
波戸辺のばら
桜前線甲斐駒ヶ岳稜線
青空に一組だけの花筵
お叱りの電話受けてる花の下
朧夜のすぐ逃げたがる抱き枕
噛んでたい
林田麻裕
春の風僕の心をふくらます
今日の彼女はかなしんでいたシクラメン
暖かや傘をパッチン片付ける
一日中パン噛んでたい春日かな
風を摘む
火箱ひろ
春の風比良の山彦連れてくる
草餅を褒めてそれからあらためて
パンデミックの闇のぼんぼり雛の間
草を摘む日溜まりを摘む風を摘む
苗札
松井季湖
よろこびもなみだも知っている蒲団
春風駱蕩高野豆腐の甘く煮え
なりわいや余寒の水に研ぐ包丁
苗札に書く花の名と花の色
朧
おーたえつこ
月の出やブロッコリーが満開で
猫が見てる「無印良品」の巣箱
思い出がちくちく光る風光る
ロボットの律儀な掃除朧かな
嘘ついた
たかはしすなお
呑み込んだ言葉むくむく青き踏む
親友と言われてしまう草団子
地球には北極南極目刺し焼く
嘘ついた子から消えゆく春の宵
軋む
つじあきこ
梅ふふむお早うおはやうございます
草の根のほろほろ春の土匂う
白木蓮ふくふくにこにこ九十歳
飛花落花地球の軋む音がする
軽トラ
辻 響子
空色のハンカチ広げ涅槃西風
囀りやほくろは右にあつたはず
ステーションピアノずんずん卒業子
おつさまの軽トラ駈ける竹の秋
紅一点
辻 水音
父が塗る畦は万全日照り雨
草鎌に「辻」の焼印春日向
花大根遺影の海は青々と
蟇出づる紅一点にして老けて
葉桜
はしもと風里
ミモザたわわたわわ何する気もおきず
落ち椿蛇口はひねるものでなく
すれ違ふマスクを深くして
葉桜やエレベーターに酔ひ